— Delirious New York Diary

Hiroshima, mon amour 24時間の情事

広島の映画撮影に日本を訪れたフランス人女優と、偶然出会った日本人建築家の、どこまでも交わることのない存在とすれ違いを描いた映画。監督は「去年、マリエンバードで」のアラン・レネ、原作・脚本は「ラ・マン 愛人」のマルグリット・デュラス。
ふと出会ったフランス人女優が原爆について思いを巡らしている。それを日本人である建築家は表面的な感情による理解だと思っているにもかかわらず、彼は彼女を熱望する。女優にしても、始めは一夜のみの関係を求めていた。最初から、日本的な情感の交わりではなく、肉体の存在を通した西洋的な関係が広島という特殊な舞台を背景に語られる。

しかし映画が進むにつれ、その距離を保った関係が崩れ始める。
女優には敵国ドイツの兵士との密通を断罪された過去があった。誰にも語られなかった、故郷で負った傷の痛みと孤独とが、ヒロシマという別の大きな傷を負った土地においてよみがえってくる。彼女は異国の日本人に過去の記憶の影を重ね合わせていたのかもしれないが、夫にも語ることのなかった過去を、ヒロシマという土地で異国の男性に語ることで彼女は何かを求めている。

しかし建築家の彼女についての理解が埋めることの出来ないひろがりを持っていることも微妙に感じ取っている。それゆえ求められても彼女は拒絶するしかない。求められているものが、肉体の存在以上の、実体のある彼女自身でないことを知っているからだ。どうしても埋まることのない距離。にもかかわらず、彼らは何かを相手に求めずにはいられないのだ。

今現在の肉体の存在は、過去の埋もれた記憶をも提示しているのだろうか?そして他人は、そのあるがままの存在を認め、受け入れることができるのだろうか? 「君はヒロシマで何も見なかった」という男の断絶の言葉。それは戦争の傷跡の深さからくる絶望でもある。反戦映画を幾度も手がけたレネは、戦争が肉体だけでなく精神的にも人々を引き裂いたことを描こうとした。この外界との断絶が、彼女を追いつめていく。戦争と恋愛を通して、そしてそれ以上に一人の人間としての存在と他の存在との関係を鮮やかに描き出している点において、この映画の意味はある。

4 comments
  1. あおやぎ says: 4月 19, 200610:59 PM

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    この記事も面白い。
    原作はデュラスですか。
    デュラスのモデラートカンタービレは秀逸な作品ですよね。
    彼女の作品のなかで一番好きです。
    殺人現場で出会った男女が見てもいない事件について、それぞれの勝手な話をしているという構造も面白かった。
    文体はとても忠実で無駄が無くエゴイスティック。
    それが独特のリズムを産み出している。
    この映画は見てみたいです。

  2. ks530 says: 4月 20, 20063:52 PM

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    精神的なコミュニケーションはとれなくとも、肉体のコミュニケーションはとれてしまう。最終的に人は勝手に話をしているだけで、一方通行になっていることには薄々気がついている。そんなわびしさを衝動的に肉体で埋める。これは永遠のテーマでしょうが、この映画の設定はその意味でものすごくよく考えられています。西洋人とヒロシマ、白人女性と日本人の男、現在の自分と過去の自分。一般的には距離感の先に立つ関係が提示され、それに足を踏み入れた後の間隙の変化が「関係」というものを強くあぶり出す。ここはデュラスの追求したテーマでしょう。海外で暮らすと身にしみて感じるもので個人的にすごく共感しました。(自分はこの映画の”女性”のほうに感情移入していましたが)
    監督のアラン・レネはそれを白昼夢のなかに誘い込んで、人の関係というものがいかに曖昧であるかをさらに強調しながら、その上で戦争のような出来事が「自分」に刻み付ける深い傷跡をも描いていて鋭い。「型」というものを作らない人なのでその分見るものに全てが委ねられますが。

  3. あおやぎ says: 4月 21, 20061:53 AM

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    名前を知らないですが、あなたはとても興味深い。
    いつか偶然にでも会って色々話してみたいものです。
    建築をしているのですか?
    最近、ひょんな事から、建築家の方と知り合う機会が多くて。
    明日も建築家の方が集まっている飲み会に行く予定です。
    建築は自分にとって最近特に興味のある分野です。
    何も知らないのですが。
    芸術家と呼ばれる人と建築家は非常に似ていてそして違っている。
    その違いになんらかの可能性と未知のもの、興味をかき立てられるのですが。
    それがなんなのかはまだ解らない。
    建築はなにかの可能性を内包している気がします。
    僕自身は旅するのが好きで、日本で生活していると、物事が客観的に見にくいと言うか、客観的な認識、あるいは会話が出来る人が少なくて退屈しています。
    あなたの書く文章は、感想文ではなく、評論として、知的客観性が保たれているので、とても興味深いです。
    好奇心を持って世界を観察すると、この世界はそれだけ深くなり豊かになる。
    奇妙な、奇妙としか言い表しようのない、理路整然と矛盾した調和の世界。
    生きる事もまた興味深い。
    そんな事を今日は考えました。

  4. ks530 says: 4月 22, 20062:10 PM

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    いろいろコメントありがとうございます。気恥ずかしいですが。
    プロフィール欄とリンクに自分のホームページ、”Spatiotemporal"のリンクを載せておりますのでお時間があればどうぞ。お遊びのようなものでまったく更新もせず完成もしていませんが、自分の作品等を載せています。

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