— Delirious New York Diary

NYの建築家~1. Contemporary Architecture Practice

ニューヨークを中心に活動する建築家を少しずつ紹介していこうと思う。第1回目は、コンピューターによる建築の位置づけを考察しながら、コロンビア大学大学院建築科出身の二人によるユニット、CAP (Contemporary Architecture Practice) の作品を紹介する。

1990年代前半、ハリウッド映画界でコンピューターグラフィックスが本格的に導入され一般化し始めた当時、建築分野にもようやくコンピューターによる3次元モデル環境がひろく受け入れられるようになった。ここで言う3次元モデル環境とは当時すでに一般的になりつつあったCAD(Computer Aided Design/Drafting-コンピューターによる2次元図面描画/設計) からさらに踏み込んで、3次元空間をコンピューター上のバーチャルな環境で解釈し取り扱うものだ。シリコングラフィックスによるワークステーションや、エイリアスなどの3Dコンピューターグラフィックソフトウェア(現Maya)が一般にも手の届く存在となり、コロンビア大学建築科にも大量に導入されたのを覚えている。

これらの新しい3次元モデル環境は、バーチャルな環境で「空間」と「物質」を取り扱うために、従来の既成空間/物質概念の再解釈の必要性を生み出した。加えて、「バーチャル」という言葉の表す意味を考察する必要性から、またこれらのソフトウェアが「アニメーション」に特化したものであったことから、「時間」という概念が空間の解釈を拡張するものとして建築においても重要性を増していったのだ。その上でアンリ・ベルグソンやジル・ドゥルーズら哲学者の時間概念もInter disciplinaryの必要性の高まりとともに多いに参考にされた。これは従来の建築が建築という独自の、完結したスタティックな存在であることを根本原理としていたことを考えれば、非常に大きな変化と言える。

近代までの西洋建築は、archetypeを定義することで建築の存在意義と物質的性格を同時に固定したうえで、’Sublime,’ ‘Melancholy,’ ‘Rhetric’といった建築の性格的な概念と、’Gravity,’ ‘Ornamentation’などの物質的な概念が相互に補完し合いながら、その地位を芸術的にも社会的にも昇華させていくことを可能にした。
それに対し、20世紀前半にミース・ファン・デル・ローエは固定化されたarchetypeをいったん分解し再解釈し、さらに建築というフィジカルな存在を成立させる「場」をも分解解釈することで既成建築概念を抽象化してモダニズムの先駆けとなる。それは、ルネッサンス期に発明された透視図法が、そこに表される空間と物質の関係を抽象化することを可能にし、新たな空間認識を生み出したことを受け継いだともいえる。当時透視図法の求心性は神の存在、あるいは人間存在を明示化することに利用され、抽象性はその永続性と普遍性を表現することを可能にしたが、ミースはそこからさらに抽象性を押し進め、空間と建築そのものの普遍性を求めようとした。(その意味では西洋文明を定義し続けた宗教色をついに排除することを可能にした、ともいえるのだが)
透視図法やミースのもたらした、建築/場の概念と物質性の抽象化は、ある意味「バーチャル」という言葉を用いて表される3次元モデル環境に通じている。そこに時間という概念が、人間の感情にではなく、(”ノスタルジー”という時間/空間感覚は西洋建築において建築の美的/社会的存在意義を高めるために常に重要な意味を持っていた)空間作用として加わることで、建築は物質的にスタティックな存在から自由になる可能性を獲得しえるのではないか。

3次元モデル環境の導入初期には、3次元モデルの要素をそれらソフトウェアの持つ時間軸上で操作し、スタティックな物質形態を物理的に変容させる試みがなされた。そこでは既成建築概念を解体するために形態操作する脱構築主義とも距離を置き始めていたと思われる。(ピーター・アイゼンマンらはコンピューター以前から、新しい形態言語を生み出すため、また確立された建築概念を解体するために手作業で取り組んでいた。2者の中間を行っていると言える)そこに空間のプログラム的要素とその時間性を掛け合わせることで、さらに空間とその現象化である形態が変容する。サンフォード・クウィンター、イグナシ・デ・ソラ・モラレスら理論家はこれらの「建築操作」を「リキッド・アーキテクチャー」と名付けたが、今ではさまざまな要素を掛け合わせて建築が成立することから「ハイブリッド・アーキテクチャー」とも呼ばれている。

ハイブリッド・アーキテクチャーにおける形態の変容は、建築の物質的要素の既成概念をも変容させる力を持つ。例えば、「壁」という要素が従来持っていた、床から垂直に空間を隔てるという定義も変容し、そこでは床が盛り上がって壁になり、壁面はさまざまなプログラム要素、例えば家具としての機能も伴わせ持つかもしれない。そういった試行錯誤が繰り返されることで、新しい生活様態や空間認識が生まれていく可能性も生まれる。
以前はコンピューターやソフトウェアの限界などから制約も多かったハイブリッド・アーキテクチャーのコンセプト化が、昨今急速に進化している。Ali Rahim率いるニューヨークのContemporary Architecture Practiceはその一端を担っている。その作品の一部を紹介したい。これらの空間が「何」なのか、それは定義されるものではないので、自由に想像していただきたい。



Fashion designer’s Resident project


Reebok Store Beijin


Olympic House

コンセプトや動画など、さらに興味があれば彼らのホームページをお勧めします。
http://www.c-a-p.net/

2 comments
  1. buranii says: 6月 10, 20059:54 PM

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    なんだか子宮内的空間を想像してしましました。床・壁・天井なんて概念は存在してなくて・・・・。
    唯一サッシの直線だけが人工的で、現実空間に戻るまさに「入口」に見えました。

  2. ks530 says: 6月 12, 20052:58 PM

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    確かに無機的な建築を変えるうえで有機的なものにモデルを求めることは昔からなされてきました。そしてその理想イメージとして体内回帰願望のようなものもあったと思います。時にアメーバ、時に昆虫、時に人体。一時期は滑らかでぼってりとした感じからBlob(おデブちゃん)と揶揄されてこの手の建築は減りましたが、最近はblobをもきれいに見せる小技を身につけた人が出て再び増えているようです。

Submit comment

Spam Protection by WP-SpamFree